おいしい映画祭が閉幕して一週間が経ちました。
慌ただしかった日々も日常に戻りつつありますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか?
さて、今年も11月30日(土)と12月1日(日)に行われた「おいしい映画祭2024」お楽しみいただけたでしょうか?
今年は、参加者のみなさまや審査員の方々からも、より「映画祭」らしくなったねという言葉をいただきスタッフ一同嬉しい限りです。
たくさんの観客に見守られる中開催されたコンペティション上映
みんなで「ワクワク」を共有する至福の時間
忘れられない光景として目に焼きついたワンシーンは一般部門のコンペティション上映。今年はありがたいことに満席となり、熱気ただよう中での上映となりました。審査中上映の『台湾ラーメンリハーサル』も盛り上がり、オフィシャルサポーター「甘党男子」のみなさんによる会場をひとつにするパフォーマンスも、お祭り感にあふれていました。そして、いよいよ審査発表。今年のグランプリに輝いたのは西井舞監督の『幸福指数』。
会場の温かな拍手に包まれる中、西井舞監督は「みていただき本当にありがとうございました」と感謝の言葉を口にしました。
ちなみにグランプリに輝くと、賞金10万円、豪華な副賞に加え、会場でもあるミッドランドスクエア シネマの1時間使用できる権利が…「おいしい映画祭」のいちばんの魅力は、受賞して終わり…ではなく「次」が待っていること。『台湾ラーメンリハーサル』の山口監督も、前年度に「審査員特別賞(グランプリ)」を受賞。『Ondan Sonra オンダン ソンラ』が上映中の山本大策監督は、第一回目のおいしい映画祭で入賞した監督。
今回入賞された監督のみなさまおめでとうございます。審査員からの𠮟咤激励を糧にしつつ、どんどん新しい作品を撮って、ぜひ近況をお寄せ下さいね。
また、西井舞監督の『幸福指数』をはじめ、観客賞を受賞した浮辺奈生子監督の『MADE IN JAPAN』。学生部門のグランプリに輝いた井出みずき監督『スフレ』、同じく学生部門の観客賞を受賞した江口諒監督の『MATAYAKI』は、動画配信サービスlocipo(ロキポ)で無料配信中。
配信期間は12月7日(土)~2025年1月7日(火)まで。
もう一度おかわりしたいという方も、未見の方もぜひご覧ください。
ゲストが登場する訳でもないのに…
どこからともなく聞こえてきた鳴り響く拍手の音
今回、おいしい映画祭のラストを飾ったのは、塚本連平監督の『今日も嫌がらせ弁当』。その上映後、ひとつのドラマが生まれました。そろそろ上映が終わるかなというタイミングで、どこからともなく拍手の音が聞こえてきたのです。
いちスタッフながら、感動して涙がこぼれそうになりました。これが映画祭の醍醐味。同じ空間で、ひとつの作品を共有し、よいものには惜しみない拍手を贈る。また、会場から出てきたみなさんの表情がとてもよい表情なのです。
『今日も嫌がらせ弁当』は、終了時間が遅くなることから、俳優の松井玲奈さんと塚本連平監督が登壇するトークイベントは上映前に行われました。
今回のために久しぶりに本作をみなおしたという松井さんは「時の流れもあると思うんですけど、ラストにいくにつれて涙がとまらなくなっちゃって…」と明かすと「今観ても面白い作品だな、楽しめるいい作品だな」とコメント。
本作で松井さんは、芳根京子さん演じる反抗期の高校生の主人公・双葉の姉・若葉を演じています。ふたりの母親・かおりを演じたのが篠原涼子さん。映画は、芳根さんと篠原さんによるお弁当を通したバトルが描かれるのですが、当時を振り返った塚本監督が「(松井さんは)微妙な立ち位置を、いい具合の塩梅で演じていただいて、その温度感がすごいよかったです」と讃する場面も。
すると、松井さんから「納豆混ぜながら、ごはん食べてるシーン覚えてます?その納豆をかき混ぜて食べるところに塚本監督がすごいこだわってて…」と裏話を披露。
「覚えてない」「全然思い出せない」という監督に、「納豆混ぜて食べるのにすごいテイクを重ねたんですよ」と松井さん。
「(僕は)何にこだわってましたか?」と尋ねる監督に、松井さんは「『もっと楽しそうに混ぜて!』って」と笑顔で答えると「そのシーンは鮮明に覚えてて、いまだに夜寝る前や納豆ご飯食べる時に思い出すんです。あの楽しく混ぜてた八丈島の日々」と、当時を懐かしそうに振り返りました。
普段は、そんなにテイクを重ねないという塚本監督「何回ぐらいやりましたか?」と問い「そのシーンは5、6回やりました」と言う松井さんに「え?そんなに?珍しいですね」と驚いた様子。
松井さんは「『もっと楽しそうに!』楽しそう???楽しそうに納豆をかき混ぜたことはないけど『がんばろう』みたいな気持ちで。監督からは『鼻歌なんか歌っちゃったりして』って。いま思えば、撮影も序盤だったし、若葉はこんなキャラクターなんだよって提示するためのディレクションだったのかな?」と分析すると「いやあ、まったく思い出せない…」と塚本監督が返し、会場はほっこり笑いに包まれました。
実は『今日も嫌がらせ弁当』では、いつもと違う変な演出方法を試みていたと塚本監督。「篠原涼子さんから『アメリカの監督のドキュメンタリーで本番中に突然、まったく違う指示をする演出方法を見たんですよ』と提案を受け『やりましょう!』と返答。松井さんもいたと思うんですけど、大事なシーンなのに本番中にいきなりでっかい声で『なんとか、かんとか』『なんとか、かんとか~』っていきなり指示してみたり…」と一風変わった演出を振り返ると、松井さんも「あった!あったあ~」と「あれは、そういう意図があってやってたんですね。私は塚本監督と1本しか一緒にやってないので、そういう演出方法の監督なんだってずっと思ってました」と打ち明け、会場は笑いに包まれました。
そんな貴重な裏話を聞いてからの上映だったので、より気持ちも盛り上がったのかもしれませんね。最後までお楽しみいただいたみなさま本当にありがとうございます。
脚本のない中、撮影をスタートした『ごはん』
コンバインが日本一似合う俳優・沙倉ゆうのさん裏話明かす
思い返せば、今回はオープニングから、いい映画祭になる予感はありました。
オープニングを飾ったのは『侍タイムスリッパー』で、今年の映画界に「サムライ」旋風を巻き起こし、一躍時の人となった安田淳一監督の前作『ごはん』。映画の主人公ヒカリを演じた俳優の沙倉ゆうのさん(『侍~』では優子殿を演じ深い印象を残す)とともに上映後、登場した安田監督。
『ごはん』の上映後だけど「朝はパン食べてきました(笑)」と会場の笑いを誘った安田監督は、本作に4年の歳月をかけたこと。2017年に公開したあとも追加で撮影を行い、今回上映した最新バージョンの本当の意味でのクランクアップは昨年(足掛け10年?)だったこと。
実際に父親の志を引き継ぎ、新米米農家となった監督は、実際に米作りをしながら直面した実情や感情を本作に「こめ」たそうです。
一方、主人公を演じた沙倉さんは「撮影が始まった時は脚本もなく、監督の頭の中にだけなんとなくのストーリーはあるんですけど、私たちには全く知らされてなかったので、ひたすら農作業をしていました」と振り返り「実はラストのシーンも(4年かけて撮ってる最初の)1年目に撮ってて…まだ何もわかってない状態で撮ってました」と明かしました。
苦労した点については「倒れるシーンは、毎年撮ってて。物語と稲の成長がうまくかみ合わないと使えないから、大きくなりすぎたとか、成長が足りないとか言いながら試行錯誤してました」と明かし、
安田監督も「3年目に撮った時は、夏の間ずっと天候が悪くて、曇ってたり雨だったり、なかなか晴天にならなかったんですね。やっといい感じになったなと思ったら、稲穂がついてて『あかん、来年やわ』で、やっと4年目で撮れたんです」とリアルな描写にこだわったが故の苦労を語りました。
「映画を撮る時に大事にしていたのは、農家の人が見てもリアルに感じるように撮ること。カメラマンとしては、先代が残してくれた田んぼという素晴らしい宝物を、綺麗に撮りたかった」という安田監督「台風も含め、結果的に商業映画では撮れない作品ができあがった。この作品は、田んぼにいる生き物も美しく撮っているんですけど…」いい話と思いきや
「そこにジャンボタニシも入ってるんですよ。今では、お前らだけは『許さん!!!』ってなります。『ごはん』を撮ってる時は、あんなに凶悪な奴らだとは知らなかったのでいい感じに撮ってしまった」とジャンボタニシへの怒りと後悔を滲ませました。
沙倉さんも、本作で土いじりの楽しさを実感したようで「いままで田んぼにいったことも、稲作の体験もしたことなかったからいろんなことが新鮮で、撮影が終わって、家庭菜園を始めました。ピーマンとか作ってます」と教えてくれました。
後半は、岐阜のブランド米「龍の瞳」今井隆社長や農家のKTこと近藤匠さんもパネルディスカッションに参戦。米作りについてトークに。
米作りに奮闘する女性の物語でありながら、米農家が抱えているリアルな事情にも踏み込んでいる本作。担い手がどんどん高齢化している話や、米作りの実情など明かしました。ゲンちゃんが怪我するくだりはリアルな話とKTさん。観た人からも「とても見応えがあった」「知らなかったことも多くて勉強になった」「おいしくごはんが食べられるありがたみを感じた」と感想が寄せられました。
トークの後には、安田淳一監督、沙倉ゆうのさんによるサイン会も行われ、大盛況。気づいたらロビーの方まで行列が。おふたりも「楽しかった~」とコメント。いいスタートの始まりでした。