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<おいしい映画祭 2023>レポ―ト②

ミッドランドスクエアシネマの3スクリーンを使って行われた「おいしい映画祭2023」
今回はミッドランドスクエア商業棟5Fのミッドランドスクエアシネマ1のスクリーンでも上映が行われました。

上映した『キツツキと雨』は
2012年に公開された
沖田修一監督のコメディ作品

ドバイ国際映画祭で、最優秀脚本賞と最優秀編集賞、さらに主演の役所広司さんが最優秀男優賞を受賞した作品です。

岐阜県の恵那市を中心に撮影が行われました。

そして映画ならではの
質感や雰囲気を味わってもらうため
35ミリで上映。
気分も高まりますね。

そんな映画『キツツキと雨』の模様からレポートしていきたいと思います。

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何度も撮り直した「あんみつ」のシーン
試写で観た役所広司さんの反応は?

(C)2011「キツツキと雨」製作委員会

名古屋に来るのは久しぶりという沖田修一監督。最近だとのんちゃん主演の『さかなのこ』で、釣ったイカを食べるシーンがふと浮かびますが『南極料理人』『おらおらでひとりいぐも』など、監督の作品には、食事シーンや食卓を囲むシーンがたくさん登場します。

山村を舞台に、職人気質の木こりとゾンビ映画の撮影で村にやってきた新人映画監督の交流を描いた作品『キツツキと雨』にも、そんなシーンがたくさん登場します。中でも印象的なのは、役所広司さん演じる克彦と小栗旬さん演じる幸一が「あんみつ」を食べるシーン。優しさと甘さが絶妙にまじりあって、克彦と幸一が心を通いあわせる、なんとも心に沁みるいいシーンなんですが、そこにはこんなエピソードが。

沖田「(ふたりがあんみつを食べるシーンは)何回も何回もやったんです。あんみつ食べる芝居。ふたりが『お腹いっぱいだよ!』ってなるぐらい撮りなおして。最終的に全部撮ったのを見たら、一番最初に撮ったカットが一番良かった。そのあと、試写でそのシーンを観た時に、役所さんが「あっ!(これ一番最初に撮ったやつじゃん)」って(笑)バレたことを覚えてます」と明かしました。

「蜜全部入れちゃえ!」と蜜をドバドバかけ、ふたりして食べてた「あんみつ」のシーンに、そんな裏話があったとは…。

沖田監督にとって食事のシーンは「コミュニケーションツール」なんだそうです。「携帯いじりながらお芝居をしたり、ご飯を食べながらお喋りするほうが、リラックスして見えるというか、よく見えることが多いんですよね。食べてることで、そのキャラクターが持つ素の表情だったり、相手との距離感だったり、いろんなことが見えてくる。そのコミュニケーションとしての「食事」が好きなんです。」と教えてくれました。

ほかにも、本作の誕生秘話やキャンペーン時に、役所さん小栗さんと一緒にひつまぶしを食べに行った思い出話、劇中で撮影してる映画『ユートピア』の裏話などを語ってくれた沖田監督。

ちなみに、小栗旬さん扮する幸一が劇中で撮影している映画『ユートピア』は、ちゃんと撮影しようと思ったら『キツツキと雨』より予算がかかる壮大なストーリーなのだそう。実際、体育館で竹やり隊を撮る時に「レールを敷いたほうがいいんじゃないか」ってカメラマンが幸一に提案するシーンは、田辺(小栗)組のほうがいいレールを使っていたのだとか。その残りのレールを沖田組は使っていたそうです。



兼重淳監督『461個のおべんとう』絶滅危惧?道枝駿佑さんの…

©2020「461個のおべんとう」製作委員会

ミッドランドスクエアシネマ2では、午後から『461個のおべんとう』の上映が。井ノ原快彦さんが毎日息子のために弁当を作るミュージシャンに扮し、その息子・虹輝役を「なにわ男子」の道枝駿佑さんが演じた作品です。本作を監督したのが『キセキ -あの日のソビト-』や『泣くな赤鬼』の兼重淳さん。

上映後、赤いニットに身を包み、にこにこしながら登場した兼重淳監督は、タレントで進行役を務めた三浦沙知子さんと、楽しいトークを繰り広げました。

是枝裕和監督の事務所で、よく若手の監督に「まかない飯」を作っていたという兼重監督。『海街diary』の撮影時には、広瀬すずちゃんが生まれてはじめて食べた「スープカレー」を作ったのが、ちょっとした自慢。そんな料理をする人の気持ちがわかることは、本作を監督をすることにも繋がっています。

井ノ原快彦さんのキャスティングについては「イノッチってなんか弁当作りそうじゃないですか。それでオファーしたら快諾いただけて、だったら息子の虹輝役も「俺のスカート、どこ行った?」や「母になる」を見て気になっていた道枝駿佑くんが出てくれたらいいなと思ってお願いしました。みっちーは、透明なんですよね。当時、彼は高校2年生で、その時にしか切り取れないような透明感や儚さがあって、そういうのを映し出せたらいいなーと。彼は、気品があってすごくいい子で、誰かが見ていなくても、ちゃんと手をあわせて「いただきます」って言える人、だから活躍してて嬉しいです」と兼重監督。いまでもふたりとは連絡をとりあっているそうですよ。

息子のため毎日弁当を作る一樹役を演じた井ノ原さんは、役作りのため銅製の卵焼き器で卵焼きの練習を相当したそうです。「イノッチは、家でも卵焼きの練習をしていて、別メニューのために買ってあったたまごを使っちゃったみたいで、奥さんに怒られたみたいなことを言っていました。現場にも、よく練習で焼いたのを持ってきてくれて、倍賞千恵子さんが「嬉し~」って言いながら食べるんですけど、端っこを食べるんですよね。福島弁も違和感なくて、本当にふたりが素敵な親子に見えました。」

ちなみにここだけのはなし、監督の苗字「兼重」は全国に2100名ほどで、珍しい苗字と思っていたそうですが、その話をふたりにしたら、井ノ原さんは150人ほど、「道枝」姓に至っては、全国におよそ10人という、珍しい苗字ということが判明。「全然俺の苗字珍しくない(笑)」と笑っていました。

写真撮影時に監督が手にしたのは、入場者プレゼントにもなった「コーミソース」。料理をするからか、貰えるときいて監督のテンションがわかりやすくあがっていたのが印象的でした。そして『461個のおべんとう』が、朗読劇『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』として博品館劇場にて上演されることが決定。兼重監督が監督・脚本・映像監督を担当されるそうです。息子役は、映画版で小学生時代の虹輝役を演じた「少年忍者」の田村海琉さんが決定しているそうですよ。

「久遠チョコレート」夏目浩次さんのメッセージ

「おいしい映画祭」のクロージング上映を飾ったのは、2021年日本民間放送連盟賞テレビ部門 グランプリを受賞した『チョコレートな人々』豊橋の「久遠チョコレート」を舞台にしたドキュメンタリーです。上映後には、鈴木祐司監督と豊橋出身で俳優の桃月なしこ さんを迎えたトークも。スペシャルゲストに、久遠チョコレート の夏目浩次さんも登壇。進行役を務める水野由美子さんと映画や、久遠チョコレートへの想いを語りました。

豊橋市出身という縁から、この日ゲストとして登壇した桃月さんは、映画をみて「久遠チョコレート」を知ったそう。「こんなに美味しいチョコレートのお店があることも、障害を持った方々が置かれている環境やどういう環境の中で働いているかも知らなくて、知らないってすごく怖いことだなって思いました。この作品をきっかけに、いろんな人に薦めたくなりました。」と感想を口にすると、鈴木監督も「そうやっていろんな感想を持っていただけて本当に嬉しく思います」とコメント。

鈴木監督が、夏目浩次さんに出会ったのは2002年。豊橋でシャッター街になりかけている商店街を再生させようとする店主たちのドキュメンタリー「夏目さんがその時、パン屋を始めようとしてて、会議をしていたんです。「障害があるひともないひとも関係ない」「みんなで意見を出し合ってパン屋を作るんだ」と聞けば賃金が安いという問題があって「それを変えるモデルケースを作っていきたいんだ」と。当時は、すごいことを言う若い人がいるってことで、そこから定期的に取材を続けていました。そして2013年か14年ぐらいに「鈴木さん、チョコレートならいろんな人が働けるんです!」って連絡がきて、最初はなんでチョコレートがすごいのかわからなかったんですけど、10店舗になり、20店舗になり、全国展開していくので、これは「すごいことが起き始めたぞ」と、本作の撮影に入りました。

取材を続けていくと、重い障害を持った方でも、仕事になると、一生懸命されるんですよね。仕事って、その人にとっては特別なもので、必要とされることに誇りを感じたり、誰かを幸せにしたり、役に立ったり、特別な力を持っている。そう考えると、やっぱり働きたいと思った方が働ける社会って大切だと、もちろん得手不得手はありますけど、それを生かして働ける場所って大事ですし、そういう社会になっていくことが、みんなが幸せになれる社会だって思ったので、これをぜひ全国の人に観て欲しいって思って映画にしました。」

2014年に久遠チョコレートを立ち上げ、いまでは全国に拠点を拡大させた夏目浩次さんは、久遠チョコレートにこめた想いをこう語る「ひとっていうのは、なんか、こう違っていいじゃないですか。できることもあれば、苦手なこともあって、普通普通じゃない、できるできない、使える使えない…、ひどい言葉で切り捨てる、そんな社会は面白くない。うつむいてるひとがいたら、一緒にがんばろうって言える、パズルを組み合わせるように補い合いながら成長していく、そんな社会にしたいし、経済にしていきたい。おかしいものはおかしいと立ち止まれる経済に。これからも、もがいて、もがいて、もがき続けようと思っているので、ぜひこれからの「久遠チョコレート」を楽しみにしていただければって思います。」

本作のナレーションを務めるのは宮本信子さん。映画を観た宮本さんは「いまの時代に一番大切なことを伝えてくれる映画だと思う」と、ナレーションも快諾してくれたという。

鈴木さんは最後に「いままでは、仕事に人を合わせるなんてことをしてきたんですけど、夏目さんとこは逆でね、このひとだったらこういう風に仕事ができるっていう、本当にでこぼこ組み合わせることで、能力を伸ばしたり、仕事の楽しみ方をみつける働き方をしています。この映画を知って、観てもらうことで、ちょっと手助けしたらもっと働きやすい社会になって、もっと優しい社会になっていく。そんな風になればと思っています。」と作品に込めた思いを口にしました。

こうして、2日間の上映は終了。いろんな味覚を味わうように、バラエティ豊かな作品たちがスクリーンを彩った2日間。もう、みるからにおいしそうなシズル感たっぷりの「おいしい」映画から、食がつなぐ人と人との絆や感動、「食」を巡る社会問題まで、まるでフルコースみたいな映画祭。上映が終わったあとも、ロビーには映画の余韻が広がっていました。

 

チョコやワインの試食に大盛り上がり
笑顔あふれるキッチンカー

そして今回は、ロビーやキッチンカーでもさまざまなドラマが。映画は、また観に来れるけど、キッチンカーには出会えないから…とわざわざ戻ってきてくれた通りすがりのお客さん。炙りおにぎりを手に、エスカレーターを嬉しそうにあがっていった観客の方々。ロビーで、ワインやチョコレートの試食や試飲を楽しんだり、コンペティションでは、どれに投票しようかギリギリまで悩まれた観客のみなさん。どの、お客さんにも共通していたのが、心躍る楽しそうな笑みを浮かべていたこと。おいしい、たのしい、うれしい、がまさにリアルタイムで繰り広げられていたのでした。

*2022年初回より映画祭アドバイザーとして、コンペティション審査員参加いただいている森谷雄さんから映画祭の感想をいただきました。

映画祭は「出会いと再会の場所」と言われています。

映画を通じてその場所に人が集まり「初めまして」の人から「お久しぶりです」の人まで、映画祭が開催される場所で「交流」が生まれます。

そこに「美味しいもの」が加わると、もっとその場所が思い出深いものになると思います。

まさに「おいしい映画祭」のコンセプトぴったりの「おいしいお言葉」をいただきました。
ありがとうございます。

来年の開催に向けて動き出した「おいしい映画祭」。ぜひ、来年もみなさんの笑顔に会えたら嬉しいです。

また、お会いしましょう!

 


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